2024年民法改正により離婚の財産分与は何が変わった?
財産分与
2024年5月(令和6年5月)の民法(家族法)の大改正により、離婚の際の財産分与もいくつか改正がなされました。そこで、財産分与に関する法律について、何がどのように変更されたのか、横浜シティ法律事務所の弁護士が解説いたします。
目次
改正民法はいつから適用される?
まず、改正された民法がいつから適用されるかについて、お話しいたします。
2024年5月17日に成立し、同月24日に公布された改正民法は、2025年現在、まだ施行されておりません。
現時点で施行日は確定しておりませんが、公布日から2年以内、つまり2026年5月までに施行されることになっております。
なお、「施行」とは法律の効力が生じることを指します。公布から施行までに期間を設けるのは、成立した法律を国民に周知して、内容を知ってもらうためです。
財産分与を請求できる期間の変更
これまでの法律
実務では、離婚をする前に財産分与の話し合いを行い、離婚時に財産分与を行うことが多いです。
他方で、離婚を急ぎたい場合等に、まず離婚を成立させ、その後財産分与を請求するというパターンもあります。
後者の場合、現行法(これまでの法律)では、離婚後2年以内に財産分与を請求しなければならないと定められておりました(民法768条2項ただし書き)。
改正後の法律
上記の2年間という期間制限は、離婚から時間が経過すると、財産資料が散逸してしまい、紛争が長期化・複雑化することが懸念されるために設けられておりました。
しかし、財産分与以外の一般の請求権の消滅時効は5年であるにもかかわらず、財産分与だけ2年というのはあまりにも短すぎるという批判がありました。
また、離婚の際に財産分与を請求しなかったことには、体調の問題や、DV等による畏怖等の事情があるケースもあり、たった2年では体調の回復、DVによる恐怖心からの回復がかなわず、請求できないことも容易に想定されますし、幼い子どもを連れての離婚の場合、バタバタしているうちに2年などあっという間にたってしまいます。
そこで、財産分与を請求できる期間は、離婚後5年間に伸ばされました(改正民法768条2項ただし書)。
なお、離婚から5年以内に財産分与調停を申し立てれば、調停での話し合いが長引いて5年以上が経過しても、問題ありません。
※一歩進んだ解説①
少々専門的な話ですが、上記の2年間(改正後は5年間)という期間制限は、消滅時効ではなく、除斥期間と呼ばれるものです。
消滅時効と除斥期間の主な違いは以下のとおりです。
・消滅時効の場合、一定の事情のもと期間の進行を中断(完成猶予、更新)させることができますが、除斥期間の場合には、財産分与請求権を行使しない限り、期間の進行を中断させることができません。
・消滅時効の場合、権利行使ができると知った時、又は権利を行使することができる時が起算点(期間のカウントがスタートされる時期)となりますが、除斥期間は権利が発生した時、すなわち離婚した時(協議離婚なら離婚届提出日、調停離婚なら調停成立日、裁判離婚なら判決確定日、裁判上の和解離婚なら和解成立日)が起算点です。
・消滅時効は時効期間が経過しても当然に権利が消滅するのではなく、請求される相手側から時効を主張して初めて権利が消滅します(時効の援用といいます)。これに対し、除斥期間は、相手側が期間の経過を主張しなくても、権利が消滅します。
※一歩進んだ解説②
上記の2年間の除斥期間(改正後は5年間)が経過した後、一切財産分与請求が認められないかというと、例外もあります。たとえば、除斥期間経過後に隠し財産が発覚した場合や、離婚時の財産分与の合意が無効となった場合には、財産分与請求が認められる可能性があります(東京高裁平成3年3月14日判決 判時1387・62)。
年金分割の期間制限はどうなる?
年金分割は、原則として、離婚成立日の翌日から2年以内に手続きしなければなりません(厚生年金保険法78条の2第1項ただし書)。2年を経過すると、年金分割を請求できなくなってしまいます。
上記のとおり、今回の民法改正によって財産分与の期間は2年から5年に伸長されましたが、年金分割は財産分与とは異なる手続であるため、期間制限に変更がないことに注意が必要です。
財産分与の考慮要素の明確化
これまでの法律
改正前の民法768条2項は、以下の内容でした。
「家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。」
このように、改正前の民法では「財産の額その他一切の事情を考慮して」とだけ記載されており、何を考慮して、どのような割合で財産を分与するのか法律には明記されておりませんでした。
もっとも、裁判例の蓄積によって、いわゆる2分の1ルールが実務では定着しており、名義にかかわらず、夫婦共有財産を、夫と妻が2分の1ずつ分けるというのが原則となっておりました(古い裁判例では、主婦の寄与度を2分の1でないと判断するような場合も散見されました。)。
また、財産分与の際に考慮する要素についても、多くの裁判例の蓄積がありました。
改正後の法律
改正後の民法768条2項は、以下の内容となりました。
「家庭裁判所は、離婚後の当事者間の財産上の衡平を図るため、当事者双方がその婚姻中に取得し、又は維持した財産の額及びその取得又は維持についての各当事者間の寄与の程度、婚姻の期間、婚姻中の生活水準、婚姻中の協力及び扶助の状況、各当事者の年齢、心身の状況、職業及び収入その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。この場合において、婚姻中の財産の取得又は維持についての各当事者の寄与の程度は、その程度が異なることが明らかでないときは、相等しいものとする。」
財産分与の目的が「離婚後の当事者間の財産上の衡平を図る」点にあることが明示された他、改正前民法では「一切の事情を考慮して」とだけ記載されていた考慮要素が、これまでの裁判例を踏まえ、かなり明確化されました。
財産分与には、清算的財産分与、扶養的財産分与、慰謝料的財産分与の三種類がありますが、現在の裁判実務では、扶養的側面はあまり考慮されず、財産の清算的側面が中心となっておりました。しかし、改正民法で「婚姻の期間、婚姻中の生活水準、婚姻中の協力及び扶助の状況、各当事者の年齢、心身の状況、職業及び収入」と扶養的要素が明記されたことで、裁判所の判断に何らかの変化が生まれるのかが注目されます(明記されたというのは、扶養的側面も重視していこうという法制審議会の考えがあるゆえではないかと思われます。もっとも、特段大きな変化が生じないことも十分考えられます)。
また、特筆すべき点は、「各当事者の寄与の程度は、その程度が異なることが明らかでないときは、相等しいものとする。」と、実務で定着していた2分の1ルールが法律に明記されたことです。
なお、法制審議会家族法制部会の資料によると、婚姻期間中に一方配偶者が家事・育児のために稼動能力を喪失もしくは減少させたにもかかわらず、他方配偶者の稼働能力が増加している場合には、稼働能力の得失や、離婚後の当事者間の稼働能力の格差を考慮要素とすべきという意見や、婚姻により生じた機会の喪失を考慮要素として含めるのはどうかという意見も出されたようです。
最終的な改正法には上記意見に基づく考慮要素は明記されておりませんが、改正民法の「その他一切の事情」という文言は、清算的要素・扶養的要素・補償的要素を含み、稼働能力の得失等も含む様々な要素を考慮し得るものと、法制審議会家族法制部会ではまとめられております。
もっとも、改正民法が施行された後、稼働能力の得失や、離婚後の当事者間の稼働能力の格差、婚姻により生じた機会の喪失を考慮要素とする裁判例が実際にどれくらい出てくるのかはまだわかりません。
実務に携わる者としては、婚姻による稼働能力の得失や、機会損失についてどのように主張立証していくのか、今後の裁判例の蓄積を待ちつつ、当面は模索が続くことになるだろうと思うところです。
財産情報の開示義務の新設
離婚訴訟における開示義務
財産分与は、夫婦がそれぞれ管理している財産を開示し合わなければ、正しく行うことができません。そのため、財産開示を巡って争いになることもよくあります。
そのようなことから、法改正により、人事訴訟法34条の3第2項に「情報開示命令」の規定が新設されました。
この規定では、財産分与に関し、「必要があると認めるときは、申立てにより又は職権で、当事者に対し、その財産の状況に関する情報を開示することを命ずることができる。」とされております。
さらに、情報開示命令の実効性を担保するため、情報の開示を命じられた当事者が、正当な理由なく情報を開示しなかったり、虚偽の情報を開示したりした場合に、「10万円以下の科料に処する」という制裁が設けられました(人事訴訟法34条の3第3項)。
なお、条項に明記はされておりませんが、開示命令に従わずに財産を開示しない場合、裁判所はそのような対応を含めた一切の事情を考慮して、当該財産の額等を認定することができます。情報開示命令のない現行の制度でも、財産資料を合理的な理由なく開示しない場合、開示しない側に不利に、裁判官が財産の存在を認定した裁判例がありますが、今後はその可能性が一層強まるのではないかと考えられます。
調停・審判における開示義務
離婚調停や財産分与調停・審判においても、離婚訴訟と同様に、情報開示義務とその制裁に関する規定が設けられました(家事法152条の2第2項・第3項、家事法258条3項)。
したがって、離婚訴訟だけでなく、今後は、離婚調停等においても、情報開示義務とその義務を果たさない場合の制裁が適用されます。
財産分与の改正のまとめ
2024年民法改正については、共同親権が注目されがちです。しかし、上記のとおり、財産分与に関連する法律に関しても、①財産分与の期間制限を5年に伸長、②財産分与の考慮要素の明記、③財産情報の開示命令の新設といった、法改正が行われました。
法律は時代に合わせて改正されてゆくものですから、司法試験に合格した後も常にアップデートしていかなければなりません。
横浜シティ法律事務所の弁護士は、離婚事件の実務に深く携わっており、常に新しい法律や裁判例を学び、研鑽を積んでおります。
初回相談は60分無料ですので、お気軽にお問い合わせください。
※財産分与の基本については、こちらのページをご参照ください。
※改正民法に関する法務省のウェブサイトはこちらです。
弁護士の山本新一郎と申します。
私は江戸時代より代々医師を生業としてきた家系に生まれ、幼い頃から病気に悩む方々に対して優しい言葉をかけ、懸命に治療をする父や祖父の姿を見て育ちました。
私が弁護士を志した原点もここにあり、法的トラブルに巻き込まれてしまった方々の負担を少しでも軽くしたいと常に考えております。
病気と同じく、法的トラブルも早めにご相談いただければダメージなく解決できるものです。
まずはお気軽にご相談ください。
離婚ひとつをとってみても悩みや答えは十人十色です。
思うまま、感じているままにお話しください。
一緒に悩み、考え、あなたにとって一番の答えを探しましょう。